2025年、秋深まるお寺で迎える七五三。受け継がれる祈りの物語
風に運ばれてくる金木犀の甘い香りに、ふと足を止めることが多くなりました。2025年の10月を過ぎ、空はどこまでも高く澄み渡り、朝晩の空気はひんやりと肌に心地よい季節です。日中の柔らかな陽光は、木々の葉を少しずつ黄金色や緋色に染め始め、私たちの心を穏やかに満たしてくれます。

こんな季節になると、思い出すのは子供たちの成長の節目を祝う、日本の美しい伝統行事「七五三」です。特に、華やかな神社とはまた一味違う、静寂と荘厳さに包まれたお寺で迎える七五三は、格別な趣があります。今回は、秋が深まるお寺を舞台に、寛永寺では開山堂(両大師堂)で行われている七五三に込められた意味や魅力、そして親として抱く想いを綴ってみたいと思います。
そもそも七五三とは、子供の健やかな成長を神仏に感謝し、今後の更なる幸せを祈願する儀式です。その歴史は古く、医療が未発達で「七つまでは神のうち」と言われるほど子供の死亡率が高かった時代に、無事に成長できたことを祝う切実な祈りがその始まりでした。
三歳:「髪置き(かみおき)の儀」 平安時代には、男女ともに三歳までは髪を剃る習慣がありました。三歳になり、初めて髪を伸ばし始めるこの儀式は、「もう赤ちゃんではない」という成長の証。可愛らしく結い上げた髪に、小さな簪(かんざし)やリボンを飾った我が子の姿は、それだけで胸がいっぱいになります。
五歳:「袴着(はかまぎ)の儀」 男の子が初めて袴を身に着ける儀式です。袴は、古くは公の場で着用する正装でした。この儀式には、幼い子供から凛々しい少年へと成長し、社会の一員としての一歩を踏み出すという意味が込められています。少し大きめの袴を一生懸命に着こなし、誇らしげに胸を張る姿は、頼もしささえ感じさせます。
七歳:「帯解(おびとき)の儀」 女の子が、それまで着物を留めていた付け紐を解き、大人と同じように本格的な帯を結び始める儀式です。これは、少女から娘へと成長し、一人前の女性として認められる大切な節目。美しい柄の帯をきゅっと結び、少し緊張した面持ちで微笑むその姿は、これまで見せたことのない大人びた表情で、親としては嬉しいような、少し寂しいような、複雑な気持ちになるものです。
これらの儀式の一つひとつに、昔の人々が子供の成長の節目をいかに大切に思い、その命の輝きを尊んでいたかが伝わってきます。現代においても、この根底に流れる「健やかに育て」という親の普遍的な祈りは、何一つ変わることはありません。

七五三のお参り先を考えるとき、「神社とお寺、どちらに行けばいいの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。どちらもお子様の成長を祝い、感謝する大切な場所ですが、その背景には少し違いがあります。
神社は、日本古来の「神道(しんとう)」の施設です。鳥居が目印で、そこは神様がお鎮まりになる神聖な領域とされています。祀られているのは、天照大御神(あまてらすおおみかみ)のような神話の神々や、その土地を守る氏神(うじがみ)様など、八百万(やおよろず)の神々です。神社での七五三は、「これまで無事に見守ってくださった神様への感謝の報告」という意味合いが強いと言えるでしょう。参拝の作法は「二拝二拍手一拝」が基本です。
一方、お寺は、「仏教」の施設です。山門が入り口となり、ご本尊として釈迦如来や観音菩薩といった「仏様(ほとけさま)」が祀られています。仏様は、悟りを開き、人々を苦しみから救い、安らぎへと導いてくださる存在です。お寺での七五三は、無事に成長できたことを「仏様やご先祖様に感謝し、これからも仏様の智慧や慈悲に包まれて、心優しく賢い子に育つようにと祈願する」という意味合いになります。参拝では、静かに手を合わせる「合掌」を行います。
どちらが良い・悪いということは全くありません。ご家庭の信仰や、安産祈願をした場所、あるいはご縁を感じる場所など、ご家族がしっくりくるところでお祝いするのが一番です。大切なのは、お子様の成長を心から喜び、感謝するその気持ちです。
神社での賑やかで晴れやかなお祝いも素敵ですが、仏様に見守られるお寺には、また違った趣と深い魅力があります。2025年の11月、秋の光が満ちるお寺の境内を想像してみてください。掃き清められた参道は、色づき始めたモミジの葉がはらりはらりと舞い落ち、静かな錦を織りなしています。本堂の屋根瓦はしっとりと空気を吸い込み、その重厚な佇まいは悠久の時の流れを感じさせます。凛とした空気の中に、ほのかにお香の香りが漂い、心を清めてくれるようです。
このような静寂の中で行われる七五三のご祈祷は、より内省的で、家族だけの時間に深く集中できる魅力があります。ご本尊様の穏やかな眼差しの前で、家族揃って静かに手を合わせる。賑やかな喧騒から離れ、仏様とご先祖様に見守られながら、ただひたすらに子供の成長を感謝し、未来の幸せを祈る。その時間は、きっと家族にとってかけがえのない宝物になるでしょう。
華やかな千歳飴の袋を提げ、慣れない草履で一生懸命歩く子供の小さな背中。それを優しく見守る父と母。歴史あるお寺の建築美や、手入れの行き届いた庭園の風景は、晴れ着姿の子供たちの愛らしさを一層引き立て、まるで一枚の絵画のような光景を生み出します。その一瞬一瞬が、色褪せることのない記憶として心に刻まれていくのです。
七五三は、当日だけが特別なわけではありません。その日を迎えるまでの準備期間もまた、家族の大切な物語の一部です。
衣装選びでは、「この着物の柄が似合うかしら」「この袴の色はどうだろう」と、家族みんなで頭を悩ませます。子供の好みを聞きながら、その子らしさが一番輝く一着を選ぶ時間は、この上なく幸せなひとときです。
写真撮影も欠かせません。最近では、気候の良い10月に前撮りを済ませるご家庭も増えました。少し緊張しながらも、カメラマンの声に合わせてポーズをとる我が子の姿。その一瞬を切り取った写真は、数年後、数十年後に見返した時、この日の感動を鮮やかに蘇らせてくれるタイムカプセルとなります。
2025年の11月15日にこだわらず、家族の都合の良い週末などを利用して、ゆったりとお祝いするのも良いでしょう。何よりも大切なのは、家族みんなが笑顔で、子供の成長を心から祝福することです。
ふと、我が子が生まれた日のことを思い出します。あんなに小さく、か弱かった命が、自分の力で立ち、歩き、笑い、時には涙し、そして今、私たちの目の前でこんなにも大きく、逞しく成長してくれた。それは、決して当たり前のことではなく、奇跡の連続であったことに気づかされます。
七五三という節目は、親である私たちに、その奇跡を改めて感謝する時間を与えてくれます。これまで無事に育ってくれたことへの「ありがとう」。そして、これからもあなたの人生が、健やかで、笑顔に満ちたものでありますように、という「祈り」。
2025年の秋。お寺の静かな境内で、愛する我が子の晴れ姿を見つめながら、その成長の軌跡に想いを馳せてみませんか。子供たちの明るい未来への願いが、澄み渡る秋空にどこまでも高く届いていく。そんな穏やかで、温かい七五三の一日を迎えられますことを、心から願っております。
この秋が、皆様ご家族にとって、忘れられない美しい思い出となりますように。
開山堂(両大師)ホームページ https://kaisando.kaneiji.jp/
東叡山寛永寺 ホームページ https://kaneiji.jp/archives/news/